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東京地方裁判所 平成8年(ワ)10648号 判決 1997年6月27日

原告

株式会社サンレモン

右代表者代表取締役

竹中紘一郎

右訴訟代理人弁護士

草野多隆

加瀬洋一

被告

株式会社オオイケ

右代表者代表取締役

大池貴哉

右訴訟代理人弁護士

山浦和之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙目録記載の形態の商品を製造・販売し、販売のために展示し、輸出し、又は輸入してはならない。

2  被告は、原告に対し、金二一〇〇万円及びこれに対する平成八年七月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、ぬいぐるみ玩具の企画、製造、販売等を目的とする株式会社である。被告は、人形玩具の製造、マスコット・置物等の趣味雑貨の製造等を目的とする株式会社である。

2  原告の商品

原告は、「ピクニックワールドシリーズ」の一環として「ミニチュアリュック」と名付けたキーホルダー及び小銭等小物入れ付き縫いぐるみ(以下「原告商品」という。)を商品化し、平成六年三月から製造・販売している。

3  被告の商品

被告は、平成七年六月から「CARRY BAG」、「プチリュック」と称せられる、別紙目録記載一のとおりの商品(以下「被告商品」という。)の製造・販売を開始した。

4  商品形態の模倣

(一) 原告商品の特徴

原告商品の特徴は、次のとおりである。

(1) 動物の縫いぐるみであること

(2) 縫いぐるみの背面にファスナーを取り付け、小銭や小物入れとして使用できるようにしてあること

(3) 縫いぐるみの背面にリュック型の肩ベルトを模したベルトを付け、左側のベルトには、シリーズ名のアルファベットロゴが記入されていること

(4) キーホルダー用金具が付いており、キーホルダーとして使用できること

(5) 全長約一五センチメートル程度であり、全体としてリュックサックをイメージしたデザインであること

(二) 被告商品の特徴

被告商品の特徴は、次のとおりである。

(1) 動物の縫いぐるみであること

(2) 縫いぐるみの背面にファスナーを取り付け、小銭等小物入れとして使用できるようにしてあること

(3) 縫いぐるみの背面にリュックの肩ベルトを模したベルトを付け、左側のベルトには、シリーズ名のアルファベットロゴが記入されていること

(4) キーホルダー用金具が付いており、キーホルダーとして使用できること

(5) 全長約一二ないし二〇センチメートル程度であり、全体としてリュックサックをイメージしたデザインであること

(三) 商品形態の実質的同一性

被告商品は、動物の種類やデザインを原告商品とは変えているが、被告商品の特徴は、原告商品の特徴と全く同じであるから、両商品の形態は実質的に同一である。すなわち、原告は、原告商品の中の個々の動物の商品の形態と、被告商品の中の個々の動物の商品の形態とが実質的に同一であると主張するものではなく、前記のとおりの特徴の共通性を問題とするものである。

不正競争防止法(以下単に「法」という。)二条一項三号に規定する「他人の商品の形態を模倣した」というために必要とされる形態の実質的同一性の有無は、商品両方の形態を比較して、同一である部分が商品の形態全体から見て重要な意味を有する部分であるか否かにより判断される。

商品の混同を惹起する程度の類似性が存在する場合には、平成五年改正以前の旧不正競争防止法の下でも不正競争とされていたが、それだけでは不十分であるとして、平成五年改正により法二条一項三号が設けられたことを考えると、同号の解釈に当たって、商品を比較した場合に、両者の区別が付きにくく見間違えるおそれがあるというような程度までの類似性を必要とすると解するべきではない。

そもそも、法二条一項三号の立法趣旨は、他人が市場において商品化するために資金・労力を投下した成果の模倣が行われると、模倣者は商品化のためのコストやリスクを大幅に軽減することができる一方で、先行者の市場先行のメリットが著しく減少し、模倣者と先行者との間に競争上著しい不公正が生じ、個性的な商品開発、市場開拓への意欲が阻害されることになるため、かかる模倣を防止することを目的とする。このような立法趣旨からすれば、前記の「商品の形態全体から見て重要な意味を有する部分」とは、同種類の商品と比較して特徴的な部分、当該商品において消費者に対して最も訴求力を有する部分をいうものと解すべきである。

そして、本件においては、両商品の特徴として挙げた前記の部分が、消費者に対して最も訴求力を有する部分に当たる。このことは、原告商品、被告商品とも、各種動物がそろえられているそれぞれのシリーズの中で、動物の種類が異なっても、商品の特徴として挙げた前記の部分の形態が全て共通していることからも明白である。

(四) 依拠

被告商品の形態は原告商品の形態に依拠したものである。

このことは、前記のとおりの商品形態の実質的同一性に加え、被告商品の発売は平成七年六月であり、原告商品の発売から約一年四ヶ月も遅れており、模倣するのに十分な時間が経過していること、原告商品と被告商品の希望小売価格は共に六八〇円であり一致していること、被告商品の名称「プチリュック」は、原告商品の名称「ミニチュアリュック」とほぼ同義であること等から明らかである。

(五) まとめ

したがって、被告商品は、原告商品の形態を模倣したものである。

5  営業上の利益の侵害

被告が被告商品を販売したことにより、原告は、その営業上の利益を現に侵害されている。また、被告が、現に販売している被告商品と類似した別紙目録記載二のとおりの特徴を有する商品を将来販売することにより、原告は、その営業上の利益を侵害されるおそれがある。

6  損害

被告が被告商品を販売しなければ原告が原告商品の販売により得られたであろう利益は、二一〇〇万円を下らない。

7  結論

よって、原告は、被告に対し、法二条一項三号、三条、四条に基づき、別紙目録記載の商品の製造・販売等の差止め、並びに損害賠償請求として金二一〇〇万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成八年七月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(当事者)の事実のうち、被告が、人形玩具の製造、マスコット・置物等の趣味雑貨の製造等を目的とする株式会社であることは認め、その余は不知。

2  同2(原告の商品)の事実は不知。

3  同3(被告の商品)の事実は認める。

4  同4(商品形態の模倣)について

(一) 同4(一)(原告商品の特徴)の事実は不知。

(二) 同4(二)(被告商品の特徴)の事実は認める。

(三) 同4(三)(商品形態の実質的同一性)の事実は否認する。

原告商品は、キーホルダーないしマスコットに過ぎないのに対し、被告商品は、それ自身飾り棚などに置いてもその形態を維持したままで置物として飾ることができるように、置物ないし飾り物としても使用され得る点で決定的な違いがある。

また、法二条一項三号は、あくまでも商品の「形態」の模倣行為を阻止しようとしているのであり、個々の商品を離れた抽象的な基本的特徴の共通性については問題とならない。したがって、仮に、右の抽象的な基本的特徴に共通性が存したとしても、そのことから直ちに同号の不正競争行為に該当することにはならない。

(四) 同4(四)(依拠)の事実は否認する。

被告は、被告商品を独自に企画・開発したものである。

(五) 同4(五)(まとめ)は争う。

5  同5(営業上の利益の侵害)は争う。

6  同6(損害)は争う。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  弁論の全趣旨及びこれにより成立の認められる甲第一ないし一六号証の各一ないし六によれば、原告商品が請求原因4(一)の特徴を有していること、原告商品の動物は、熊、ライオン、キリン、象、河馬、レッサーパンダ、犬、ウサギ、猿、牛、ビーグル犬、ペンギン、イルカ、ネズミ、蛙、猫であることが認められる。

また、被告商品が別紙目録記載一のとおりの形態のものであることは当事者間に争いがなく、被告商品の動物は、象、キリン、ライオン、狐、アライグマ、パンダ、フクロウである。

二  請求原因4(三)(商品形態の実質的同一性)の主張について判断する。

原告は、原告商品の中の個々の動物の商品の形態と、被告商品の中の個々の動物の商品の形態とが実質的に同一であると主張するものではないとして、請求原因4(一)及び(二)記載のとおりの、動物の縫いぐるみの背面にファスナー、リュック型の肩ベルトを模したベルト及びキーホルダー用金具が付いていること等の特徴の共通性をとらえて、被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一である旨主張する。

しかしながら、法二条一項三号所定の「他人の商品……の形態」にいう「商品の形態」とは、商品の具体的な形態をいうものであって、具体的な商品の形態を離れた商品のアイディアや、商品の形態に関していても抽象的な特徴は、「商品の形態」に当たらない。原告主張のように、抽象的な特徴の同一性までを法二条一項三号における商品形態の模倣に含ませて解釈することは、同号の文言上からも困難である。

よって、原告が主張するとおり、原告商品と被告商品との間に特徴の共通性があるとしても、このことをもって、被告商品を、法二条一項三号の「他人の商品の形態を模倣した商品」に該当するということはできない。

まして、被告商品の特徴を抽象的に挙げるにすぎない別紙目録記載二の商品が、「他人の商品の形態を模倣した商品」に当たるものということはできない。

三  したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件訴えは、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西田美昭 裁判官八木貴美子 裁判官沖中康人)

別紙目録

一 被告が「キャリーバック」「プチリュック」シリーズと称して販売している左記商品

1、ゾウ

全長約一二センチメートル

(別紙写真目録1記載のもの)

2、キリン

全長約一四センチメートル

(別紙写真目録2記載のもの)

3、ライオン

全長約一二センチメートル

(別紙写真目録3記載のもの)

4、キツネ

全長約二〇センチメートル

(別紙写真目録4記載のもの)

5、アライグマ

全長約二〇センチメートル

(別紙写真目録5記載のもの)

6、パンダ

全長約一二センチメートル

7、フクロウ

全長約一一センチメートル

二 右商品の他、左記特徴を有する商品

1、動物型縫いぐるみ

2、縫いぐるみの背面にファスナーを取り付けて、小物入れとなるもの

3、リュックサックタイプのベルトを付けたもの

4、キーホルダー用金具を付けたもの

5、全長一〇センチメートル〜二〇センチメートル内のもの

別紙写真目録1〜5<省略>

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